スマートフォンとYouTubeが変えた「音楽の居場所」
※本記事は、30年以上作曲を続けてきた私自身の視点から、90年代~2000年代初頭のJ-POP黄金期について考察したものです。このテーマは一つの記事で語り尽くせるものではありません。本記事では、その中でも私が特に印象的だと感じたポイントを中心にまとめています。
CDが売れなくなった理由は、一つではない
90年代、日本の音楽市場は世界でも有数の規模を誇っていました。
ミリオンセラーは珍しくなく、多くの人が毎月のようにCDを買い、音楽は生活の中心にありました。
しかし、その市場は90年代後半をピークに少しずつ変化していきます。
当初は、違法コピーやレンタル文化の広がり、携帯電話向け音楽配信(着うたなど)の登場など、さまざまな要因が重なりながら市場は緩やかに縮小していきました。
そして、その流れを決定的なものにしたのが、後に訪れるスマートフォンとYouTubeの普及だったと、私は考えています。
一般的には、
「違法コピー」
「海賊版」
「違法ダウンロード」
が原因だったと言われることも多くあります。
もちろん、それらが影響したことは間違いありません。
しかし私は、それだけでは説明できないと思っています。
もっと大きな変化が、社会そのものに起きていたからです。
人々が使う時間そのものが変わった
市場縮小のきっかけは一つではありません。
しかし、その流れを決定的に変えたのは、私はスマートフォンの普及だったと思っています。
それまで私たちは、
CDを聴く。
カセットへ録音する。
コンポで音楽を楽しむ。
車で音楽を流す。
カラオケで歌う。
そんな毎日を送っていました。
しかしスマートフォンが普及すると、
YouTubeを見る。
ゲームをする。
SNSを見る。
動画を楽しむ。
一日の時間は変わらないまま、人々の時間の使い方だけが大きく変わりました。
つまり、音楽が悪くなったのではありません。
音楽だけが人の時間を独占できる時代ではなくなった。
私は、その変化が最も大きかったのではないかと思っています。
YouTubeは音楽の役割まで変えてしまった
YouTubeは2005年に登場しましたが、本格的に社会へ浸透したのは、スマートフォンが普及してからだったように思います。
私が特に大きな転換点だったと感じているのが、このYouTubeという存在です。
昔、音楽は単なる娯楽ではありませんでした。
アーティストは歌を通して、
恋愛。
人生。
夢。
社会への思い。
さまざまなメッセージを届ける存在でした。
だから私は、音楽には「メッセンジャー」としての役割もあったと思っています。
しかし音楽には時間がかかります。
曲を書き、
レコーディングを行い、
CDを制作し、
発売する。
早くても数か月。
場合によっては一年近くかかることもありました。
ところがYouTubeは違いました。
今日起きた出来事を、
今日の夜には動画で発信できる。
しかも映像があり、
本人が話し、
表情が見え、
字幕も入り、
音楽まで付けられる。
一つのコンテンツで届けられる情報量は、CDとは比較になりません。
つまりYouTubeは、
音楽が担っていた「メッセージを届ける役割」の一部まで変えてしまった。
私はそう感じています。
「無料」という価値観も大きく変わった
もう一つ、見逃せない変化があります。
それは「無料」という価値観です。
私たちの世代は、音楽を聴くためには、
CDを買う。
レンタルショップで借りる。
そのどちらかしかありませんでした。
つまり、音楽を楽しむには何らかのお金を払うことが当たり前だったのです。
しかしYouTubeが普及すると、
検索するだけで音楽が流れる。
しかも関連動画が次々に表示される。
無料で、しかも無限に近いコンテンツへアクセスできる時代が始まりました。
これは、それまでのCDというビジネスモデルにとって非常に大きな変化だったと思います。
私が今でも忘れられないこと
音楽市場が変わり始めた頃、私はインターネットの掲示板をよく見ていました。
そこには、
「最近の音楽は売ることばかり考えている。」
「昔みたいな個性が感じられない。」
「同じような曲ばかりになった。」
「もうCDは買わない。」
そんな書き込みが少しずつ増えていったのを覚えています。
もちろん、それはネット上の一部の意見です。
しかし、音楽が好きだからこそ厳しい言葉を書いている人も多かったように感じます。
私自身、作曲をしていた人間として、その言葉を見るたびに胸が痛みました。
まだ私は業界を動かせる立場ではありませんでした。
だから何もできませんでした。
その後、CDの売上が本格的に落ち始めると、業界では違法コピーや海賊版が大きな問題として語られるようになります。
もちろん、それも現実だったでしょう。
しかし私は今でも思います。
その前から、リスナーは何度もサインを出していたのではないか。
もっとアーティストを大切にしてほしい。
もっと個性のある作品を聴きたい。
そんな声が掲示板には数多く書き込まれていました。
しかし業界は、その声よりもセールスを優先していたように、当時の私には見えました。
そして時代がさらに進み、海賊版対策なども行われましたが、売上はかつてのようには戻りませんでした。
もちろん、その背景にはスマートフォンやインターネット環境の普及もあります。
だから原因は一つではありません。
それでも私は、あの頃リスナーが発していた小さな声にも、もっと耳を傾ける余地はあったのではないかと思っています。
音楽の価値は変わっていない
ここまで読むと、
「音楽の時代は終わった」
と思われるかもしれません。
しかし私はそうは思いません。
音楽は今でも、人の心を動かす力を持っています。
変わったのは音楽ではなく、
音楽を取り巻く環境です。
スマートフォンが普及し、
YouTubeが生活に入り、
ゲームやSNSが身近になり、
人々が触れるメディアそのものが変わりました。
その結果、
音楽は数あるコンテンツの一つになりました。
私は、CD市場が縮小した理由を一つに求めることはできないと思っています。
違法コピーやレンタル文化、携帯音楽配信、そしてスマートフォンやYouTubeの普及。
そのすべてが積み重なった結果だったのでしょう。
ただ、その中でも人々の時間の使い方そのものを変えてしまったという意味では、スマートフォンとYouTubeの登場が最も大きな転換点だったと、私は考えています。
そして90年代J-POP黄金期は、音楽だけが特別だった時代ではなく、
音楽が社会の中心にあった最後の時代だったのかもしれません。
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執筆者プロフィール
MARUYA328(中丸 勲)
合同会社momopla 代表 / 総合BGMプロデューサー
音楽制作歴30年以上。テレビ番組、企業案件、インターネット動画向けのBGM制作を手がけ、これまでに29,000曲以上のオリジナルBGM・効果音を制作。制作した楽曲は、テレビ番組、企業コンテンツ、有名YouTuberの動画など、幅広いメディアで採用されています。
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