バブル景気と「ハードとソフトの両輪戦略」から見るJ-POP黄金期
※本記事は、30年以上作曲を続けてきた私自身の視点から、90年代~2000年代初頭のJ-POP黄金期について考察したものです。このテーマは一つの記事で語り尽くせるものではありません。本記事では、その中でも私が特に印象的だと感じたポイントを中心にまとめています。
音楽性だけでは説明できない疑問
これまで私は、ビーイングサウンドや小室哲哉サウンド、そして作曲家とアーティストの関係性について、音楽そのものの視点から書いてきました。
しかし、あるとき一つの疑問が浮かびました。
なぜ、あの時代だけあんなにCDが売れたのか。
名曲が多かったから、というのは間違いではありません。
しかし、それだけでは説明できない部分があるように思います。
そこで今回は、少し視点を変えて、音楽性ではなく経済とハードウェアという角度から、あの黄金期をもう一つの見方として考えてみたいと思います。
梱包を売る会社が、レーベルそのものを持っていた
CDというフォーマットは、ソニーとフィリップスが共同開発したものです。1982年、世界初のCDプレーヤーが発売されました。
ここで見落とされがちなのが、CDプレーヤーやコンポといったハード(筐体)を製造・販売している会社自身が、音楽レーベルそのものを自社グループ内に持っていた、という事実です。
ソニーには長年、「ハードとソフトは車の両輪」という経営哲学がありました。創業者の盛田昭夫さんは、録音済みのソフトが生まれたことでハード側のビジネスも伸びていくという手応えを感じ、それがレコード会社事業への進出につながったと後年語っています。
この構造が意味することは大きいと思います。
普通、レコード会社は「良い曲を作り、CDを売って利益を出す」ことがゴールです。しかしハードメーカー自身がレーベルを持っている場合、ゴールはその先にあります。CDというソフトそのものの売上だけでなく、そのソフトを聴くためのコンポやプレーヤーというハードまで売れれば、投資は二重に回収できる。
だからこそ、ソフト(アーティストや楽曲)にかける予算は、単体のレコードビジネスとしての採算だけでは測れないスケールになっていきました。もちろんそこには、当時のバブル景気という追い風もありました。しかし、それだけでなく、そもそも「ハードを売るための起爆剤」としてソフトへ資金を投じるという構造自体が、予算を惜しまない土壌を作っていたのだと思います。
80年代・90年代は「個性」を育てる時代だった
もう一つ、私がこの時代を語る上で欠かせないと思っているのが、個性を育てるという考え方です。
当時は、今のようにSNSで一瞬にして評価が広がる時代ではありませんでした。
だからこそ制作現場では、
「批判されないものを作ろう。」
という発想よりも、
「このアーティストの魅力をどう引き出そうか。」
ということへ、より多くの時間が使われていたように思います。
コード進行。
アレンジ。
歌詞。
ビジュアル。
ライブ演出。
そのすべてが、一人のアーティストの世界観を作り上げるために組み立てられていました。
レコード会社も、作曲家も、プロデューサーも、
「この人だから成立する作品」
を目指していた。
私は、その姿勢こそが90年代から2000年代初頭のJ-POP黄金期を支えていた大きな要素だったと思っています。
もちろん、当時も商業的な戦略はありました。
しかし同時に、その戦略の中で個性を育てることにも十分な時間と予算をかけられる余裕がありました。
経済的な豊かさと、作品づくりに向き合える制作環境。
この二つが重なったことで、今でも語り継がれる多くの名曲が生まれたのではないでしょうか。
バブル景気と「高校生でも20万円のコンポを持っていた」時代
ここに、もう一つ重要な要素が重なります。バブル景気そのものです。
当時は、高価格帯の商品が当たり前のように売れる時代でした。ビデオデッキも、高級車も、そしてオーディオコンポも、「良いものにはお金を払う」という空気が社会全体にありました。
高校生でも十数万円から20万円ほどのミニコンポを持っていることが珍しくなく、大人であれば30万円クラスのシステムコンポを購入することも自然な時代だったと記憶しています。
今の感覚で言えば、スマートフォンや配信サービスにお金を使う感覚に近いのかもしれませんが、当時はそれが「モノ」として、しかも高額な家電製品として消費されていました。
この土壌があったからこそ、CDというソフトの普及と、コンポというハードの普及は、互いを押し上げ合う関係になれたのだと思います。
ハードとソフトの掛け算が生んだ好循環
整理すると、こういう構造が見えてきます。
ハード側の理屈 魅力的なアーティスト・楽曲があるほど、CDを聴くための再生機器(コンポ)が売れる。
ソフト側の理屈 再生機器が家庭に普及するほど、CDというソフトそのものの市場も拡大する。
予算と自由度 ハードメーカー自身がレーベルを持つことで、ソフトへの投資はハード販売まで見据えた規模になり、しかも当時は表現そのものが自由だったため、その予算が尖った作品づくりへ生きた。
バブル景気という土壌 若年層まで含めて可処分所得が潤沢で、高価格帯のハードもソフトも両方が「売れる」時代だった。
この四つが同時に噛み合ったからこそ、CDシングルが100万枚単位で売れるという、今では考えられない規模の市場が生まれたのではないでしょうか。
電機メーカーからすれば、アーティストへの投資は音楽ビジネスの範囲にとどまらず、自社の主力事業であるハード製品全体の販売戦略と地続きだった。そして、その投資を大胆な作品として結実させられるだけの自由な空気が、当時の音楽シーンには確かにあった。私はそう考えています。
名曲は、時代の掛け算から生まれた
私はこれまで、名曲は作曲家やアーティスト、プロデューサーの力によって生まれると考えてきました。それは今も変わりません。
しかし今回、経済とハードウェア、そして表現の自由という視点から見返してみると、もう一つの真実が見えてきます。
あの黄金期は、優れた音楽と、ハードメーカー自身がレーベルを持つという大胆なビジネス構造と、バブル景気という潤沢な経済環境と、炎上を恐れずに済んだ自由な表現の空気。そのすべてが、たまたま同じ時間軸の上で重なり合った時代だったのではないか。
技術も、才能も、経済も、自由も、時代も。
そのすべての歯車が噛み合ったからこそ、90年代から2000年代初頭のJ-POPは、今もなお色褪せることなく残り続けているのだと思います。
私はこれからも、音楽そのものだけでなく、その音楽を生み出した時代の構造にも目を向けながら、この黄金期を研究し続けていきたいと思っています。
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ZARD、B’z、ビーイング系、小室ファミリー、歌謡曲などの時代から影響を受けたオリジナル楽曲を発表しており、全楽曲の作曲・プロデュースは MARUYA328 が担当しています。
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執筆者プロフィール
MARUYA328(中丸 勲)
合同会社momopla 代表 / 総合BGMプロデューサー
音楽制作歴30年以上。テレビ番組、企業案件、インターネット動画向けのBGM制作を手がけ、これまでに29,000曲以上のオリジナルBGM・効果音を制作。制作した楽曲は、テレビ番組、企業コンテンツ、有名YouTuberの動画など、幅広いメディアで採用されています。
現在は、オリジナル音楽素材サイト AIBGM(AI BGM Library) および FreeBGM.jp を運営し、映像制作者・動画クリエイター・企業向けに音楽素材を提供しています。公開楽曲の累計ダウンロード数は50万ダウンロードを突破しました。
また、自身も日々コンテンツ制作や音楽制作を行いながら、BGMの選び方、動画演出、著作権・商用利用、音楽制作、AI音楽活用などについて、実際の制作経験とサイト運営の実績をもとに情報を発信しています。
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